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Recny

2011/08/04(木) きんじ商店

日常::雑記
とある郊外に魚屋を営むお店があった。それの名は「きんじ商店」勤勉を努めた二宮金次郎にあやかってつけた名と言う。店主は魚の知識がプロ級の博識、というわけでもなかったが、魚についてことさら好きでお店には旬の魚が並べられており、有名ではないもののお店に来る客は「ここの魚はおいしい」と評判だった。
そこの店主も店名に恥じないくらいの努力家で、客とのコミュニケーションも大事にしており、特に常連客に至っては表情を見ただけで「今日は秋刀魚を探しにきたね」とぴしゃりと当ててしまうほどだった。

ある日のこと、「きんじ商店」に一人の客が来た。その客は「評判のお店」のうわさ、つまり「きんじ商店」を聞いて買い物に来たらしい。
その客は店主に
 「鯛2尾下さい。それともしできれば刺身じょうゆ、盛り付けに良さそうな お皿1枚も一緒にお願いできますか?」
と言った。店主は一瞬戸惑い、心の中で”ここは魚屋で、しょうゆなら向かいの酒屋、お皿なら近くの食器屋なんだけどなぁ・・・”と思った。しかし、店主はここで断っては、今、目の前にしているお店の評判を聞きつけた客をがっかりさせてしまうと考えた。

そこで店主は客に対して「まいどあり、ちょっとお時間かかるのでお茶でもどうぞ」と言ってお茶を出し、店の奥で作業していた嫁に「向かいの酒屋でしょうゆを買って、あそこの食器屋で盛り付け用の皿を買ってきてくれ、それといくら掛かったか教えてくれ」と指示を出し客と鯛の料理で雑談しながらコミュニケーションをとっていた。しばらくして、嫁が帰ってくると「2600円かかった」と言って、鯛2尾と一緒に用意した。そして店主は、「鯛が1尾5000円なので、12650円です」と言い、代金をもらいその客は満足して帰っていった。

それから、1ヶ月ほどが経ったころ、前回とは違う人で、評判を聞きつけた客が来た。その客も魚とあわせてしょうゆとお皿を注文し、店主は以前の客と同じように対応した。その客もまた、大変満足したらしく「評判通りだね、ありがとう」と言って去っていった。店主は客に喜んでもらえることが非常に嬉しかったが、内心ではしょうゆとお皿に手間があっても儲けはなく、それぞれの店で買ってほしいという思いもあった。しかし、客が喜んでくれる事は非常にうれしく、努力家で熱心な店主は一生懸命対応した。

そして、その後は「きんじ商店」には魚だけでなくしょうゆとお皿も買い求める人も多くなっていってき、ついには、魚を注文せず、「しょうゆ1つ、お皿5枚下さい」と言ってくる客がやってきた。手間ばかりかかる注文どころか、お店にとって利益のない注文についに店主は

「しょうゆなら向かいの酒屋、お皿はそこを右に曲がった店で買ってくれ」

と言ってしまった。
その客の表情は一瞬で変わり「何が良い評判だ、二度と来るか」と言って帰ってしまった。

その後、客入りは急激に遠のき、閑古鳥がなくような店となった。店主は、「やってしまった」と悩み、失敗に悔やみながらお店を辞めることを決意し、店の看板「きんじ商店」を下ろそうとした。

しかし、その時店主は下ろそうとした看板を見てこう叫んだ。

「そうか!これじゃあ駄目だ!だからあんなお客さんがきたんだ!」

店主は、看板を下ろすことをやめ、そこに一つ書き加えることにした。そうして「きんじ商店」の看板は、

魚のことならお任せあれ! きんじ商店

となった。その時に店主が考えたことはこうであった。

「一番最初にしょうゆと皿を求めた客は、評判を聞いただけできたのでこの店が魚屋だと知らなかったんだ。だから、少々不安があったのから魚は注文したがしょうゆとお皿は相談したんだ。でも、私は客の言葉に応えることに一心でこの店が魚屋であること、しょうゆとお皿は別で買うべきであることをアドバイスせずに、全て自前で対応してしまった。

だから、あの客の後から、あの客の評判で、しょうゆとお皿を求める客が増えたんだ。これじゃあ結局、客にうそをついているようなものじゃないか」


それからの「魚屋 きんじ商店」は、

どんな話にもアドバイスをくれて、

美味しい魚を売っている

評判の【魚屋】として商売繁盛していった。

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